【「うちの子の大学受験、どう向き合えばいい?」と悩む皆さまへ —— 特性を抱え、最後まで戦い抜いた少年の記録】

「……さて。本日は、誰よりも長く、誰よりも真っ直ぐに受験という山を登りきった、ある少年の物語を。 どうぞ、静かな夜の灯火(ともしび)のそばで、お聞きください。」

「何が背後にあろうと、何が前方に立ちはだかろうと、自分自身の内側にあるものに比べれば、それは些細なことだ」 —— ラルフ・ワルド・エマーソン


プロローグ:吃音と学習障がい。重なる壁の先に見据えた「頂」

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。 今日ご紹介するのは、高校三年生の6月に出会った、一人の純朴な青年の物語です。

彼は幼い頃からこの放課後デイに通い、吃音(きつおん)という特性を抱えながらも、一歩ずつ歩んできた子でした。さらに彼を苦しめていたのは、「学習障がい」というもう一つの壁。 単語テストをしても20問中7点……。どんなに地道に努力を重ねても、理想の半分も暗記が追いつかない。そんな彼が打ち明けたのは、「高校受験で失敗した悔しさを、大学受験で晴らしたい」という強い決意でした。

予備校講師時代の私なら、あるいは厳しく指導していたかもしれません。しかし今の私は、彼が普通の受験生の何倍もの時間をかけ、歯を食いしばって机に向かっているのを知っています。 間違えた箇所を一緒に埋め、何度でも「君は前向きに頑張っているよ!」と、彼の心に寄り添い続けました。

第一章:プロが練り上げた「点ではなく面で捉える」逆転の作戦

学習障がいの特性上、暗記に頼る戦い方は彼にとって不利でした。そこで私は、**「暗記を最小限にし、読解力で勝負する」**という逆転の作戦に出ました。

配点の低い文法問題には深入りせず、配点の大きい読解問題で、文章を「面」として捉える。私が長年培ってきたトレーニングを徹底しました。 さらに、彼が最も恐れていた「面接試験」へのアドバイス。 「吃ってもいいんだよ。背伸びせず、ありのままの君が、何を学びたいかを伝えておいで」

その言葉を胸に臨んだ総合型入試。彼は見事に合格を勝ち取り、初めて確かな「自信」を手にしたのです。

第二章:三月、最後の入試まで。彼が教えてくれた「諦めない才能」

しかし、本当の戦いはここからでした。第一志望の受験、結果は不合格。 肩を落す彼を見て、私はかける言葉を探しました。ところが、彼は顔を上げ、驚くべき言葉を口にしたのです。

「後期試験も受けます。まだ、諦めていません」

その試験も不合格。しかし、彼は止まりません。「三月の最後の入試まで受けます」と。 教育の現場に25年身を置いてきましたが、特性を抱え、ボロボロになりながらも、三月まで戦い抜く意志を失わなかった受験生を、私は他に知りません。

第三章:学歴という看板より、一生を支える「やり抜いた自分」

結果的に、第一志望の門を潜ることは叶いませんでした。 彼は11月に合格していた大学へ進むことになりました。本人は不本意だったでしょう。悔しくて、自分を責めていたかもしれません。 私は最後に、彼にこう伝えました。

「ここまで頑張り抜いた受験生は、先生の長いキャリアの中でも初めてなんだよ。結果じゃない。この『やり抜いた』という事実にこそ、君の本当の価値があるんだ。自信を持って大学へ行ってきなさい」

その時、彼の顔にふっと咲いた笑顔。それは、どんな有名大学の合格通知よりも、美しく、輝いて見えました。


エピローグ:その笑顔が、本当の「合格証書」

皆さま。 特性や学習障がいを持つお子様の大学受験は、確かに不安の連続かもしれません。 しかし、お子様の個性に合わせた戦略を立てれば、道は必ず開けます。大学へ合格する「術(すべ)」は、やり方次第でいくらでもあるのです。

ただ、最後に大切になるのは、大学の名前ではありません。 どんな環境でも「自分はやり抜ける」という誇りを持って生きていくこと。 私たちは、そんな「生きる力」を育む伴走者でありたいと願っています。

また、同じ言葉を繰り返させてください。

「何が背後にあろうと、何が前方に立ちはだかろうと、自分自身の内側にあるものに比べれば、それは些細なことだ」 —— ラルフ・ワルド・エマーソン

不合格という結果や、障がいという困難が前方にあったとしても、彼が内側に宿した「やり抜く力」に比べれば、それは些細なこと。その力が、これからの彼の人生を支える、最強のエンジンになると信じています。

それではまた、次の小さな一歩でお会いしましょう。

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