「さて。本日もまた、小さなドラマが一つ。 どうぞ、ゆっくりとお聞きください。」
「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」 —— イチロー(プロ野球選手)
プロローグ:エネルギーという名の原石と向き合う
皆様、いかがお過ごしでしょうか。 私はこれまで、約25年という歳月を、予備校や塾、あるいは短大の教壇という場所で過ごしてまいりました。 いわば、教育という旅路の「出口」をずっと見守ってきた人間です。
そんな私が今日、勤め先の放デイで出会ったのは、小学校低学年の「エネルギーの塊」のような男の子。 じっとしているのが少しばかり苦手で、何事も「勝ち負け」という物差しで測ってしまう、真っ直ぐすぎる少年でした。
第一章:皮膚が語りかける、心と脳の調和
私たちはまず、体を優しくさする活動から始めます。 皮膚への刺激が脳や姿勢を整えるという考えのもと、仰向け、うつ伏せ……丁寧に、ゆっくりと触れていきます。
彼を横にするのにも一苦労ですが、軽妙なおしゃべりで気を逸らしながら進めていきます。 一見、ただの遊びのように見えるかもしれませんね。 ですがこれが、将来彼が机に向かい、落ち着いて社会と向き合うための「根っこ」を育む、大切な土壌作りなのです。
第二章:10年後のフォームを見据えて —— 結果を急がない勇気
次に、ボールを投げる運動を行いました。 体幹がまだ定まらない彼の球は、なかなか思うようには飛びません。 ですが、私はそこで「結果」だけを問うことはしません。
私のもとへ届かなくても、腕をしっかり振り切ったこと。投げようとする方向が良かったこと。 高校生になる頃までに、自分をコントロールできるようになればいい……。 今はそのための「自信」を育む時なのです。
ほふく前進レースで見せた、風のような速さと、弾けるような笑顔。 野球のバットで見事にボールを捉え続けた、あの凄まじい集中力。 彼の中には、磨けば光る才能が、あふれんばかりに詰まっているのです。
第三章:深海に眠る「知の力」 —— 好きなことが拓く自立の道
クールダウンの時間、彼と一緒に年賀状を書きました。 あまり気が進まない様子でしたが、私の促しで「少しやってみよう」と思ってくれたのでしょう。 私の引いた薄い下書きを、震えるペン先で一生懸命になぞり始めました。 そのブレた一本の線に、私は彼の確かな「意志」を感じ、胸が熱くなりました。
そして、彼の大好きな深海魚の話になると、彼の表情は一変します。 魚たちを深さ別に仕分ける彼の瞳は、もはや専門家のそれでした。 こうした「好き」という熱狂から文字を覚え、暗記力を高めていく……。 教える側の私が、逆に教えられることもしばしばあります。 この探究心こそが、いつか彼が社会という大海原で生き抜くための、最強の「武器」になるのでしょう。
エピローグ:ママの元へ駆けていく、確かな一歩
お迎えに来たお母様の元へ、低学年の男の子らしく弾むように駆け寄っていく後ろ姿。 その光景を見送りながら、私は静かに願いました。
保護者のみなさま。 今はまだ、ペン先が震えていても、真っ直ぐボールが投げられなくても、大丈夫です。 25年の経験を携え、私は皆様の隣で、その「震える一歩」を一緒に喜びたい。 未来を見据えながら、今日という日の「できた!」を大切に守っていきましょう。
……また、同じ言葉を繰り返させてください。
「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」 —— イチロー(プロ野球選手)
焦ることはありません。その積み重ねの先に、きっと素晴らしい景色が待っていますから。
それではまた、次の「小さな一歩」でお会いしましょう。

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