「自分にできることを、自分のいる場所で、自分の持っているものでやりなさい」
—— セオドア・ルーズベルト(元アメリカ大統領)
「……さて、本日もまた、時を越えた再会のドラマを一つ。」
プロローグ:一枚の古い写真が教えてくれた「空白の季節」
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
今朝、事務作業の傍らで、一枚の古い写真が私の目に留まりました。
そこに写っていたのは、あどけない笑顔を見せる小学生の少年。
実は、彼こそが本日の物語の主人公です。
私が出会った時、彼はすでに高校三年生の夏を迎えていました。
志望大学合格への切符を掴むため、英語のサポートを任されたのが始まりです。
写真の中の彼が、どんな壁にぶつかり、どんな思いでこの放課後デイに通っていたのか、当時の私には知る由もありません。
しかし、目の前に立つ青年は、自身の経験から「教育学部を目指し、障がいを抱えた子供たちの役に立ちたい」と語る、真っ直ぐな瞳の好青年でした。
第一章:予備校講師としての技術、支援員としての眼差し
私はかつて予備校の教壇に立ち、合格のテクニックを叩き込んできた人間です。
彼の入試に向けて、私は持てる全ての技術を注ぎ込みました。
「単語の綴りは覚えなくていい。一つの単語に、一つの意味。それで十分だ」
私のその言葉に、彼は驚き、そして安堵したようでした。
受験英語とは、いわば「情報の整理」です。
正しいものを選ぶより、間違っているものを弾く。わからない問題は執着せずに次へ行く。
そんな「戦い方」を、私たちは二人三脚で積み上げていきました。
第二章:点から面へ —— 英文という名の海を泳ぐ力
私が彼に一番伝えたかったのは、英語を「点」で読むのではなく「面」で読むことでした。
一つひとつの単語を追うのではなく、文章の繋がり、すなわち「結束性」を意識する。
この視点を持った時、彼は少しずつ自信を深めていきました。
もちろん、すべてが順風満帆だったわけではありません。
障がいの特性ゆえか、単語を覚えることには人一倍苦労しているようでした。
かつて予備校の教壇に立っていた頃の私なら、単語テストの満点は「当然の義務」として厳しく指導していたことでしょう。
しかし、今の私は考えを変えています。
たとえ満点ではなくても、彼が机に向かった事実を、まず大いに褒めました。
点数が下がってしまった時でさえ、私は笑顔でこう声をかけたのです。
「覚えきれなかった場所が、今日ここで発見できて良かったじゃないか。それが次の一歩だよ」
第三章:満点よりも大切な、自分を信じるという合格点
大切なのは満点という「結果」ではなく、自分の弱点を知り、改善しようとするその真摯な「姿勢」なのだと、彼が私に再認識くれました。
実のところ、入試までに覚えられた単語は、予定の三分の二ほどだったかもしれません。
それでも、彼はいつも「次はこうしてみます」と、前を向いていました。
結果は、見事な「合格」でした。
彼は合格が決まった後も、大学の授業に遅れないようにと、入学直前まで私の元へ英語を学びに来ました。
「英文を読むって、楽しいですね」
その言葉を聞いた時、私は指導者として、これ以上の喜びはないと感じました。
エピローグ:かつての少年が、今の子供たちを支える背中へ
今の時代、大学に進むことだけが人生の正解ではありません。
しかし、彼が少しずつ歩みを進め、自分の居場所を見つけ、自立へのスタートラインに立ったことは紛れもない事実です。
今、居場所がないと感じている子供たち。
そして、不安な夜を過ごしている保護者の皆様。
ここで、もう一度、私の好きな言葉を紹介させてください。
「自分にできることを、自分のいる場所で、自分の持っているものでやりなさい」
—— セオドア・ルーズベルト(元アメリカ大統領)
彼は、自分にできることを、あきらめずに積み重ねました。
人は、いつからでも、どこからでも変わることができます。
その「変化」という名の奇跡を、私はこれからも信じ続けたい。
それでは、また。
次の「小さな一歩」でお会いしましょう。

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