「……さて。本日もまた、静かに揺れる小さな心に寄り添った一日を。 どうぞ、物語の頁(ページ)をめくるように、お聞きください。」
「過ちを犯さない人は、何事も成し遂げない人だ」 —— セオドア・ルーズベルト
プロローグ:曇り空のような彼の横顔
皆様、いかがお過ごしでしょうか。 今日、我が放課後デイにやってきた彼は、いつもの「嵐のような元気」がありませんでした。
前日から「息苦しい」と漏らしていたそうです。それが喘息のせいなのか、それとも心の重圧からくるものなのか……。 部屋に飾られたクリスマスツリーをスタッフとゆったり眺めたり、甘えるようにイラストを描いてもらったりするその姿。そこには、かつて暴言を吐いて自分を守っていた時とは違う、繊細で壊れそうな少年の素顔がありました。
第一章:甘えたい心と、向き合わねばならない「宿題」
しかし、無情にも「宿題の時間」はやってきます。 「難しすぎるんだよ……」 そう呟きながら鉛筆を握る彼は、どこか投げやりでした。
早く終わらせて、この場から逃げ出したい。そんな気持ちが、乱雑な字と飛ばされた二つの空欄に表れていました。算数の仕組みを理解すれば、きっと解けるはずの問題……。私はヒントを出しましたが、今の彼の心には届きません。 とりあえず終えることだけが目的になり、思考が止まってしまっている。そんな様子でした。
第二章:計画と現実の狭間で —— 指導者としての深い反省
実は、私は今日、彼と一緒に前もって宿題を始める計画を立て、終わるまでの見通しを共有していました。 特性を持つお子様にとって、ゴールの見えない作業は苦痛でしかありません。だからこそ、教育業界に25年身を置いてきたプロとして、万全の準備を整えていたつもりでした。
しかし、それでも足りなかったのです。 体調への不安、迫る帰宅時間への焦り……。彼の揺れ動く「今」の感情を、私の計画は包み込みきれませんでした。 もっとできることがあったのではないか。拭いきれない反省が、私の胸に静かに込み上げます。
第三章:不完全な私たちが、共に歩んでいくということ
宿題は結局、途中までしか終わりませんでした。 ですが、ここで彼は、以前とは違う姿を見せてくれたのです。かつての彼なら、ここで大暴れし、暴言の嵐となっていたはずでした。 しかし今日の彼は、静かに筆箱を閉じ、帰る準備をして送迎車へと向かいました。
車に乗り込む彼に、私はもう一度伝えました。 「今日は宿題、きちんと取り組んで偉かったな! またね」 それでも、彼の表情が晴れることはありませんでした。「うん」と答える小さな声。その時、彼の心は、一体どんな色をしていたのでしょうか。
ここで、もう一度あの言葉を思い出してみたいのです。
「過ちを犯さない人は、何事も成し遂げない人だ」 —— セオドア・ルーズベルト
私も彼と一緒に、失敗し、悩み、反省しながら、一歩ずつ進んでいきたい。彼が「完璧でない自分」を許せるようになるために、まずは私自身が、自分の不完全さを認める伴走者でありたい……そう思うのです。
エピローグ:次に来る時は、笑顔の花が咲くように
保護者の皆様。 お子様が上手くいかない日、顔が晴れない日。それを見守るお父様、お母様の心もまた、曇り空のように重くなることがあるでしょう。
どうぞ、ご自分を責めないでください。 私も、不完全な人間の一人として、皆様と一緒に悩み、一緒に成長していきたい。共に歩んでいきましょう。
次、彼が玄関を開ける時、その顔に少しでも笑顔が戻っていることを願って。 また、同じ言葉を繰り返させてください。
「過ちを犯さない人は、何事も成し遂げない人だ」 —— セオドア・ルーズベルト
大丈夫。その「上手くいかなかった今日」も、何かを成し遂げるための大切な一歩なのですから。
それではまた、次の小さな一歩でお会いしましょう。

コメント